新市立病院のあり方を考える市民の会

現行建設計画は国の方針と整合せず妥当性を欠いている。

税金200億円超!市立病院建設計画に潜む市民が
知らない6つの「不都合な真実」

1.はじめに 〜松本市立病院は本当に私たちのためのものか?〜

市民の信頼の象徴であるべき市立病院が、今、松本市の未来を揺るがす大きな議論の火種になっています。市が総事業費200億円超を投じる新病院の建設計画を進める一方で、2025年11月13日、松本市医師会の元会長らで組織された『新市立病院の在り方を考える市民の会』は「計画には重大な欠陥がある」として市長に計画の中止・変更を求める要求書を出した。市民の皆様に税金問題として関心を持っていただきたい。なぜ、私たち医療の専門家は計画に「待った」をかけたのか。要求書で指摘した数々の問題点の中から、特に市民が知るべき6つの「不都合な真実」を掘り下げ、私たちの街の病院の未来を考えます。

2.国の医療方針に逆行?「集中と特化」に逆らう巨大計画の謎

第一の疑問は、新病院計画が国の大きな医療方針と正反対の方向を向いている点です。現在、全国の病院の75%以上、市立病院等は86%が赤字経営に陥っており、このままでは国民健康保険制度そのものが崩壊しかねません。この危機を受け、国は全国の病院の数を絞り込み、高度な手術や救急医療を特定の病院に「集中」させる方針を打ち出しました。そして、200床以下の病院には、高齢者などのリハビリを中心とした在宅復帰を目指す「治し支える医療」へ「特化」することを求めています。※なお「巨額病院」予算は、市議会で議決されていません

しかし、松本市の計画は、この「集中と特化」の流れに真っ向から逆行します。計画されているのは、最先端の「高度急性期医療」を目指す「コンパクトな多機能病院」。僻地と言えない波田地域に、広大な外来・検査室、3つの手術室を備えるという壮大な構想です。しかし、この計画の野心と現実の間には、埋めがたい溝があります。新病院は「26科」の診療科を標榜する一方で、麻酔科を除けば常勤医師がいるのは僅か「6科」に過ぎないのです。なぜ国の方針に反し、実態に見合わない巨大な投資が必要なのか、その理由は明らかにされていません。

3.財政破綻への道?「200億円以上」という重すぎるコスト

計画がもたらす財政的なリスクは、極めて深刻です。総事業費は、建設費153億円、銀行金利50億円、さらに周辺整備費を合わせると200億円を上回ります。現在の松本市の財政状況は、貯金約447億円に対し、借金は980億円超。この状況で200億円以上の新たな投資を行うことは、市の財政に深刻なヒビが入ります。さらに、返済計画も非現実的です。病院は事業費の半分にあたる76億円を30年で市に返済する義務を負います。これを達成するには、毎年2億5000万円以上の利益を出し続ける必要があります。しかし、全国の自治体病院の86%が赤字で、その赤字総額は3,633億円に上るという厳しい現実を踏まえれば、この目標達成がいかに困難であるかは火を見るより明らかです。

『市民の会』は、病院管理者が策定した計画は財政を100%無視した潰れる計画であると断じます。一つの病院への過剰な投資は、将来、他の市民サービスや必要な政策を実行する余力を奪ってしまう危険性をはらんでいます。

4.「黒字経営」は幻想? 数字の裏に隠された病院経営の実態

これほど厳しい財政予測を前に、市側は病院の経営が好調であるかのように見せかけているが、『市民の会』はその数字の提示に、一貫したパターンがあると考えます。第一に、病院は病床稼働率の上昇を成果としているが、実態をより正確に表す「病床回転数」(1つのベッドが年間に何人の患者を診たか)を見ると、2023年度の「32.4」に対し、2024年度は「32.6」とほぼ横ばいである。これは、単に入院日数を延ばして見かけ上の稼働率を上げただけで、実際に治療した患者数が増えたわけではないことを示唆します。

年度平均在院日数病床稼働率病床回転数(計算式込み)
2023年度8.3日73.4%(366 ÷ 8.3) × (73.4÷ 100) = 32.4
2024年度10.0日89.2%(365 ÷ 10.0) × (89.2 ÷ 100) = 32.6

* 上表の通り、両年度の病床回転数は約32回と実質的に変動していない。この事実は、報告された病床稼働率の上昇が入院患者数の実質的な増加でなく、**平均在院日数を人為的に延長した結果**生み出された見せかけの数値であることを明確に示している。これは病院の実績を不当に良く見せるための指標操作であり、厚生労働省データと病院の決算書に記載された数字の齟齬が指摘される。
第二に、コロナ禍で「3年連続黒字」、「5年連続黒字」という報道も、実態は国と市からの多額の補助金によるものである。他の病院があえて喧伝しない事実を、さも経営努力の成果であるかのように発表した(2022年8/30、2024年7/3、2024年11/10、市民タイムス)。

そして最も深刻なのは、国への報告と市立病院の決算書の数字が異なっている点である。これについては「公文書偽造」が疑われます。

5.設計業者の選定で応募条件を変更する違法行為をした

他の全ての業者が応募条件の4階で基本設計に応募したが、唯一条件に反した5階を提案した意中の業者に決め他の4社を排除した。「市の公契約行政違反」であり建設業界の不信を買った。

6.患者の安全は二の次?見過ごせない医療体制の「根本的欠陥」

計画に関する問題の中で、最も見過ごせないのが患者の安全です。

市立病院は、緊急時に対応する放射線技師の不在、死亡事故の隠蔽、研修医の勉強に行う解剖で、主治医不在で遺体を間違えた。整形外科専門医による誤診、麻酔科医の不在など、医療体制に「根本的な欠陥」があります。その象徴的な例が、7月に起きた産科の医療過誤です。出産時に赤ちゃんが低酸素状態となり障害を負ったこの事故は、公式には助産師から医師への報告が遅れたことが原因とされましたが、より根深い問題として「緊急時に帝王切開を行うための麻酔科医が病院にいなかったことが最大のミス」と考えます。患者の命を預かる病院で、最も優先されるべき安全の保証が揺らいでいるのです。

7.誰が責任を取るのか? 市議会に丸投げされる計画の行方は!

これほど多くの問題点が指摘される中、責任の所在が曖昧になっています。建設場所の危険を主張する市民団体が計画の中止を求めた際、市の渡辺病院局長は「病院は市議会の決定に従っている」と回答した。計画を主導してきたのは市長と病院管理者であるにもかかわらず、その責任を市議会に転嫁するこの姿勢は「今日まで、これほど無責任な発言を聞いたことがない」。前代未聞の無責任さは厳しく批判されるべきです。

また、病院経営の専門知識を持たない市議会が、地元の医療関係者の意見を十分に聞くこともなく、財政負担を考えないで「巨大病院」の建設を承認してしまったプロセスそのものに問題があります。専門的な知見や明確な責任者が不在のまま巨大プロジェクトが進むという、ガバナンス(法令遵守)の崩壊が起きているのです。こんなことは他の市ではあり得ません。

8.結論 〜未来のための選択である「身の丈に合う病院」とは〜

国の方針との矛盾、200億円超という財政的リスク、不透明な経営実績、設計業者選定での違法行為、そして何より患者の安全をめぐる懸念。これら数々の「不都合な真実」を突き詰めると、問題の根源は一つの点に行き着きます。それは、建設計画での明確な責任者が不在というガバナンスの欠如です。責任の所在が曖昧だからこそ、国の方針に逆らい、財政を度外視し、不正をして意中の業者に決める、データ偽造で実績を糊塗し、患者の安全を脅かす計画が、誰にも止められずに進んでしまうのです。『市民の会』が提案するのは、国の方針に従い、地域の役に立つ「身の丈に合う病院」への計画の見直しです。産科問題が片づけば、一部修正で「巨額病院」に戻ることは、あってはならない。

巨額な税金と市民の安全が天秤にかけられる中、問われるべきは根本的な問題です。この計画は、真に市民のための病院なのか、それとも、破綻したガバナンスの記念碑になってしまうのか。今一度、立ち止まって考える時が来ています。

9.今度こそ市長は基本計画を一から見直してもらいたい

臥雲市長は2024年11月4日、市議会で市立病院の基本計画について「改めて松本地域の医療機関や有識者に意見を聞き、必要な見直しを検討してゆく」と述べた。「2040年を見据え地域医療の在り方が示される新たな地域医療構想を巡り、国のガイドラインや医療を取り巻く情勢も厳しさを増しており、国や県の動向を注視しながら見直す」とした(11/5信濃毎日新聞)。
市長の議会発言は極めて重い意味があります。松本市が、国の動向に従った病院にしない限り市立病院は潰れてしまいます。国、県と有識者の意見に耳を傾け松本医療圏の病院と診療所を守る先頭に立ってもらいたいものです。
また、松本地域の病院は、集中と特化、病院の役割分担、救急医療のあり方、第2種感染症指定医療機関のあり方について議論する必要があります。

病院の建設場所である波田駅前の中央運動広場は河岸段丘に囲まれた場所です。中段に大切な農業用水路があり、ここは土砂崩落の危険があるレッドゾーンで、市は簡単な工事で済ませたが危険は解消されず、現病院より危険な場所です。

松本市市立病院は高齢者が増える時代、地域に役立つ「身の丈に合う病院」にすべきです。ここでしっかり立ち止まり、視野を広げ、常識と現実に向き合い学ぶことが大切です。

コラム「市立病院建設10年」〜何が変わったか〜

2016年松本市が波田にある市立病院の移転新築を決め10年の歳月が経ちました。

私が『市民の会』の活動に賛同したのは、会の皆様が単に反対でなく少子高齢社会の進行や国の動向や医療に詳しい現役の医師が地元住民のことを考え「身の丈に合った病院」にすべきだと考えているからです。何が変わったかは、国が予想する以上に少子・高齢化が急速に進行していることです。国は人口増加時代に増えすぎた病院や診療所を減らす方針を固めました。テレビ番組は全国の病院が経営難で修理費も高額医療機器の更新もできず、24時間対応を余儀なくされる救急医療を維持することが厳しくなっていると報道しています。このままでは、地域の基幹病院が潰れてしまいます。ところが多くの国民は、そんなことはないと思っています。しかし、国民皆保険制度を守るため財務省と厚労省は仕方ないと考えています。友人の開業医に聞きますと、医者が儲かっていたのは25年前まで、コロナ禍とその後の診療報酬の改定で、医院の経営はもう限界だと言われました。

臨床経験が長い名医も「医療機関の大量倒産が発生し、医療体制が崩壊、体調が悪くても医者に相談できない、がんになっても手術まで半年待ち。有権者がそれでいいと思えば、仕方がない」、「残念だがこれまでの医師個人の地道な努力もおしまいだ」と申します。

話を市立病院に戻します。市議会「病院建設特別委員会」で、医療と病院経営の素人同然の議員が、自分達のために「巨額病院」を建てたい病院と議論しても結果は病院の思い通りになります。地元の医師会や病院関係者を除外して審議することは、日本中どこにもありません。市立病院がまともなら、大赤字で潰れる計画は作りません。松本市は病院建設のノウハウを持っていません。関連する部長は「市長案件」に対し市長が怖くて何も言いません。

中途半端な基幹病院を作っても、市民は病気になれば確かな病院を選びます。
病院の建設場所の決定はひどいものです。前回は、発がん物質で汚染された広大な敷地(5.6万㎡が安く購入できる)。今回は、危険な河岸段丘直下(市長が病院を街おこしに利用)に決めました。賛成した議員は、中央運動広場は新たに建物を建てるのに適さないレッドゾーンであることや(市は解除されたと主張)、波田の特殊な地形や河岸段丘の中段に波田、新村、和田地区の農業用水路があることを知りません。市長案件に賛成する議員は現地視察に参加しないお粗末でした。市と病院は都合の悪い情報は一切出しません。地元新聞も何故か市長に忖度して記事にしません。大多数の松本市民は、自分が利用しない病院だから関係ないと無関心です。しかし、それで済まないのは200億円もの税金が使われることです。東京の友人と話しをすると、彼女は市立病院が産科の事故でお産を止めたことを知っていました。「東京でも近くの病院や診療所が潰れ、老人保健施設が利用できなくなると心配する人が増えている。なぜ、長野県で一番医療の質と量が整った松本市が、大多数の市民が利用しない波田に莫大な投資をするか分からない」と申します。市長さんは「国の医療政策に反する計画を容認し、財政的に困難である巨額病院に憧れるのですか」。「松本市の財政に大穴を開け、負の遺産になる過ちを犯さないでください。」「巨額病院」計画の予算は議決されていないと聞きます。今、市長である臥雲さんの見識と器が問われています。

(いけだ・やよい)