市立病院はまともに経営が出来ない
市立病院には「経営」という文字が存在しない。2017年、菅谷市長のもとで病院建設検討委員会が設けられた。「答申」は、波田住民と市立病院が求める「大きな病院」と医療者が理想とする「スリムな病院」の両論併記であった。ところが、市は医療者の意見を無視して大きな病院を建てることに邁進した。松本医療圏における市立病院の役割、診療実績と経営実績、将来予想を考えず、規模も役割も異なる岡谷市立病院を模倣して設備費50億円を含む103億円の建設計画を策定した。しかし、建設起債(借金)の返済は考えない、経営は高齢者が増えるので問題ないという杜撰なものであった。
国は2003年から高額な診療報酬になるDPC制度を導入した。市立病院も看護師を増やし設備投資を行ったが成果はなかった。その結果、赤字対策として病院の経営改革と機構改革を避けて通れないはずだったが、高木病院長(当時)は無視した。2017年、斉川病院局長(当時)は赤字を少なくするため、架空の未収金10年分2.5億円を加え2.1億円の赤字を4千万円弱の黒字に改竄した。
さらに、病院収入に対する職員給与比率を低く見せるため、収入を嵩上し、給与を低くみせる二重帳簿を作成していた。市財政部に確認したが、病院会計は「病院にお任せ」と答えるだけであった。市議会議員、公認会計士による監査委員は、この件を不問にしている。そこで「市民の会」は総務省、厚労省に資料を持参し報告した。また、病院建設計画は議会承認を受け、市民に対しパブリックコメントが実施された。ところが、病院局長が一部のパブコメ情報を杉山松本市医師会長(当時)に漏洩する不祥事を起こした。病院局長は職員の職務規則に違反したとして処分を受けている。「市長案件」だからなりふり構わず行う違法行為が今も引き継がれている。
2020年からコロナ感染症が猛威を振るい、市立病院は2類感染症対応に多忙を極め、正常診療は制限された。病院建設の主たる責任者である倉科病院局長(当時)は、コロナ禍で経営指標も立てられないので病院建設を急ぐことに慎重であった。一方、病院健全経営監督の主たる責任者である管理者は、“病院を縮小して経営改革をすれば、医師・看護婦が退職して病院は潰れるので現状を維持する”という考えを広めた。職員を甘やかして味方につけ、経営改革にブレーキをかけた。病院長も病床削減には反対であり180床に拘った。赤字になってもそれは市が補填することが当然と考えており、病院に自浄作用は存在しない。
管理者は全国の病院が規模を縮小し経営改革を必死に進めているのに対し、中小病院であることを忘れ、急性期を主体に政策医療を行う病院として「全人的人生医療を行うため多機能体制(総合病院化)を構築する」を目標にしている。しかし、これは現実を無視した夢物語に過ぎない。巨額な新病院も内容が伴わなければ患者を集めることは困難である。
現在の渡辺事務部長(兼企画課長)は長野市民病院から赴任した。事業運営を監督すべき病院局長も兼務しており、呆れ果てた人事である。長野市の人口は37万人強であるが、大病院は長野赤十字病院と篠ノ井病院しかなかった。長野市と長野市民は専門医療ができる医療施設を希求し1995年、400床33診療科がある長野市民病院が生まれた。信州大学医学部附属病院の教授の定年を早めて病院長に迎えるなど強い絆で結ばれている。2016年、地方独立行政法人化した。一方で、松本市の西部地区にある市立病院は180床の中小病院で、常勤医師がいる診療科は7科にすぎず専門医療や高度医療は不可能である。事務部長=病院局長は、巨額な急性期病院を建てれば長野市民病院のように患者が集まると勘違いしている。長野市民病院設立当時と時代背景が異なり少子高齢化・人口減少、国の医療政策の大転換が起きている。地域要素についても、充実した松本医療圏の医療施設の存在を全く考慮に入れていない。市長に忖度すれば、いくら赤字を出して構わないと確信しているなら困ったものである。
設計会社の選定では、管理者と事務部長がプロポーザル方式を悪用して意中の業者を選定した。病院側がわざわざ提示した4階建てに従った他の4業者全てを排除している。この件で、市議会、建設関係者、市民から疑惑が持たれ、市の公契約と建設事業の公平性が大きく損なわれた。公契約を司る市財政部は、ここでも「病院にお任せ」と嘯くのだろう。
市立病院経営評価委員で苦言を呈する松本市の公認会計士とまつもと医療センターの病院長(外科医)を外し、それぞれ公募の会計士と松本医療圏の事情と一般医療に疎い、駒ヶ根市の精神科病院長に替えている。4月から、病院内の総務課長、建設課長、企画課長も一新した。ワンマン体制にすれば、多様な意見や職員の協力は得られず、後継者の育成や病院の存続自体が危うくなる。本年4月、市立病院建設特別委員会で「経営強化プラン」が審議された。事務部長=病院局長は病床稼働率95.4%を維持する、外科手術件数を2倍にする、一般病床の入院単価を上げて病院経営を安定させる、“頑張れば可能”と公言したが、いずれも達成は不可能であろう。今や既に病院間で急性期患者の奪い合いが起きているが、これといった特徴がない市立病院がこの競争に勝つことは難しいであろう。実現不可能であれば管理者と事務部長が責任を取ることは当然である。
6月25日、同特別委員会で病院建設実施設計予算が議論された。上條美智子委員が「市民の会」が市民に配布したビラの内容を渡辺事務部長に正したところ、誤りがあると発言した。上條委員はどこが誤りか具体的に指摘して欲しいと質問したが事務部長は沈黙した。阿部功祐委員がこの場でやることでない、個人的に対応すべきだと発言した。村上幸雄委員長も市職員の答弁拒否に同意し、実施設計予算を承認した。質問に注文をつけた委員と答弁を促さなかった委員長は、議員本来の役割を放棄した。前代未聞の恥ずべきことであり、議員としての資質が厳しく問われる。今後、市議会には慎重かつ冷静で理知的な議論が求められる。
決算書から市立病院の経営を分析する
単位:億円
年度 | 医業収益 | 給与費 | 給与費率 | 医業外収益 | 繰出金 | コロナ補助金 | 損失・利益 | 入院数 | 外来数 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2014 | 38.39 | 26.67 | 69% | 4.11 | 4.04 | △5.32 | 51,442 | 114,253 | |
2015 | 39.16 | 28.08 | 72% | 3.85 | 3.87 | △1.60 | 55,299 | 114,754 | |
2016 | 38.27 | 29.12 | 76% | 3.79 | 3.80 | △2.54 | 53,579 | 108,895 | |
2017 | 39.64 | 30.19 | 76% | 4.28 | 3.87 | 0.37 | 55,172 | 105,226 | |
2018 | 41.19 | 31.21 | 76% | 4.69 | 4.52 | △0.80 | 57,408 | 105,653 | |
2019 | 43.93 | 31.61 | 72% | 4.65 | 5.49 | 2.90 | 65,661 | 89,941 | |
2020 | 36.80 | 31.21 | 85% | 14.01 | 5.69 | 6.91 | 2.77 | 49,973 | 80,770 |
2021 | 40.34 | 30.11 | 72% | 13.32 | 5.66 | 8.85 | 5.54 | 51,036 | 89,149 |
2022 | 41.68 | 29.86 | 78% | 12.51 | 4.69 | 7.88 | 4.70 | 49,940 | 98,109 |
2023 | 未公表 | 未公表 | 未公表 | 未公表 | 1.70 | 3.72 | 57,554 | 83,888 |
出典:市病院局、市財政課
- 市立病院の医業収入(入院、外来、その他)は40億円前後であるが他の病院にない医業外収益ある。それは、病院事業会計への繰出金であり3.80億円〜5.69億円が加わる。
- 医業外収益の内訳は受取利息、一般会計等負担金、国県補助金、長期前受金戻入(国による機材購入費)、その他医業外収益である。長期前受金戻入は最高1.75億円で市立病院は財政面で他の病院と比べ明らかに優遇されている。
- 職員の給与は高く、また、医業収益に対する給与費率は、最近5年で平均76.6%である。一般病院並み(60%)に下げない限り、経営改善は望めず、赤字の垂れ流しが続く。
注1:給与費率は、医業外収益を除いて一般病院と同じ条件で計算した。なぜなら他の病院は医業外収益という超優遇措置なしで経営している。また、救急・小児・周産期医療(政策医療)も過剰な補助金なしで普通に行っているからである。
注2:松本市立病院は県内12の自治体病院の中で給与費率はダントツに高い。 - 2017年度、市立病院は流動資金が枯渇して11.1億円になった。倒産を免れるため従来の繰出金に加え、市から2017年度3.1億円、2018年度4.9億、2019年度6.5億円、3年間で14.5億円という破格の補助金を入れている。
- 2019年度から2023年度の5年間連続黒字というのは大嘘である。病院事業会計への繰出金5.49億円、6.91億円、5.66億円、4.69億円、未公表に加え、2020年度から国のコロナ補助金が6.91億円、8.85億円、7.88億円、1.70億円が投入され見た目が黒字になっているに過ぎない。市立病院の経営は黒字との記者会見をして市民を欺くことは、市長のすることではない。
- 市立病院決算書では赤字は当年度純損失、黒字は当年度純利益として計上される。2014年度〜2018年度までは赤字である。2017年度は赤字を黒字に粉飾している。2019年度の黒字は、収益は増えたが、繰入金が5.49億円あった。2020年度からはコロナバブルで4年間合計25.3億円の補助金により見かけ上の黒字である。実質赤字が続いているので、病院が返還すべき「起債(借金)」を毎年返していない。
- 外来患者は10年前に比べ3万人減少。入院患者は増加しているように見えるが、2023年ではコロナ患者(9.5%)を引けば5.2万人台で増加傾向にない。2017年の経営予想である高齢者が増えれば市立病院の患者が増えるという予想は間違いであった。
- 企業会計である病院は、一般会計と異なり出納整理期間がなく毎年3月末を決算日とし5月31日までに市長に決算書を提出している。市立病院の決算報告は6月に行うべきで9月では遅すぎる。