新市立病院のあり方を考える市民の会

地域医療関係者を外した審議で、医療に素人同然の市議会議員は再び市立病院に誤魔化された

1.松本市はどうしてここまで市立病院を甘やかすのか?

2016年、松本市は老朽化を理由に市立病院の改築を了承した。しかし、実態は全く異なる理由でした。波田にある会社が撤退を決め、松本市に広大な5.6万m2の土地を売却する話を持ちかけた。当時庁内にはこの場所を利用する予定がなかったので、病院改築が当て馬になった。しかし、松本市土地公社規則によれば、この土地は使用目的に照らし莫大で、さらには土壌汚染があり、購入してはならない土地でした(最終的に会社側が松本市への売却を諦めた)。

松本市は病院を建てたことも運営したこともないので、職員はノウハウを全く知らない。その為、博物館や市役所建設とは異なる複雑かつ流動的な医療事情が背景にあり、地域医療構想の中で医療関係者が丁寧に議論すべき案件で、市議会が安易に扱える案件でないことを理解していなかった。
そこで松本市は、病院のあり方について専門者会議に「提言」を策定してもらった。しかし、これを形だけに貶めて、市と病院は提言を無視、骨抜きにして、多額なお金を必要とする大きな病院を作ろうと画策した。

2017年時、市立病院の流動資金は11.1億円しかなく、債務超過寸前だった。菅谷政権下における市立病院の「基本計画」は杜撰なため、このまま計画を進めれば赤字は累積し破綻すると判断し、市自ら計画を凍結した。
菅谷前市長は病院長を更迭し特別参与を指名した。病院側に自浄努力を強く迫ったが、結局破綻を免れるために多額の補助金を拠出してしまった。結果的にこれが大きな間違いとなり、病院は経営改革を実行しなかった。市長は不在であった病院管理者を新たに決め、自らは退任した。
臥雲市長下に移り、前政権の失敗を繰り返さないため、医療の専門家が「提言」を策定した。国の考えに沿って経営改革を行い、病院のスリム化と増加する高齢者のフレイル対策を取り入れた、優れた「提言」であった。
しかし驚くべきことに、経営改革の責任者である北野病院管理者が、記者会見までして改革を拒否した。市はこの時点で管理者を更迭すべきであった。管理者は提言に難癖をつけ「見直し骨子」案を作り巨額計画に変更した。
なお、病院建設は本来病院長の役割である。管理者の一連の言動は常軌を逸している。これを放置した市長に重大な責任がある。
大問題の根幹は、病院のオーナーである市長が変節し管理者の間違った考えに同意したことである。その後、16人の市議会議員からなる「市立病院建設特別委員会」は病院が作る「基本構想」を審議して承認した。しかし、医療・病院・経営・医療政策の激変についての知識がない素人同然である議員は、病院建設の正否に対する判断基準を持ち合わせず、病院の説明を充分理解できなかったのは当然で病院の思惑通りになってしまった。市民は、よその病院建設ではあり得ない茶番劇を2回見せられたことになる。

2.病院は節操がなく「基本計画」の決め方も間違っている

節操がある病院であれば、赤字を黒字に見せかけるような粉飾や改竄はしないし、コロナ感染症に対する多額の補助金を加え赤字が解消されても、黒字化したとは言わない。また、意中の設計業者を採用するためにプロポーザル方式を悪用しライバル業者を排除しない。さらに、市立病院は規模、診療実績、長年続く赤字経営の全てを棚上げにして、あれもこれも欲しい巨額な病院を自分達のために建てたいと願い、税金に依存しきっていることを何とも思わない。国が指示した病院のスリム化を実施しない。「経営強化プラン」と経営予想はでたらめである。・・・これ程節操がない病院は見たことがない。

公立病院建設のセオリーでは、まず専門者会議組織を立ち上げ、理事者(首長)が以下の委員を指名する。①地域の保健・医療・福祉団体代表、②医療に関する学識経験者、③地方公共団体、④地域住民代表、⑤理事者の指名する者である。委員全員で病院建設について多角的に検討し間違いのない「基本構想」にするまでしっかりと責任を持つ体制にする。それに基づいて、病院が「基本設計」「本設計」を策定し市と協議して決める、これこそがセオリーである。松本市の場合、「基本構想」のセオリーは無視され、「市長案件」として病院局以外の職員には口を挟ませないので、庁内では歯止めが効かなくなっている。
医療に関する学識経験者がいない中で、市議会が正しい判断ができなくでも多数決で決めさえすれば民意を反映しているので「よし」としている。しかし、こんな手法で良いわけはない。有識者会議の「提言」をある程度反映し、市議会の了承を得ているため、一見民主的に見えるが、市(病院)の思うままであり、市民は騙されてはいけない。7年近く迷走し、間違った結論を出した原因はこの間違った手法にもある。

3.誰のために病院を作るかという根本を見失っている

行政が作る箱物は大きく豪華で大金がかかるといわれている。市立病院も多額の税金をつぎ込んで当然とばかりに麻痺しているので経営を度外視し、自分たちの妄想を具現化した病院を作ろうとする。
今、国家財政も地方(市)財政も借金まみれである。だからこそ負の遺産を次世代に先送りしてはならない。国は市立病院の役割を、在宅療養を支援する「地域密着型病院」に決めているので、役割が主として急性期でない市立病院に多額な投資をする必要はない。
身の丈の合う病院建設こそ、国や時代の要請であり、医療関係者や市民の考えでもある。

松本市立病院のオーナーは市長であるが、市民のための病院であることを忘れている。店子である病院は、西山地区の唯一の病院だから、あれもこれも備えた巨額な立派な病院を建てて欲しい、そのためには赤字が出ても税金をいくらつぎ込んでも構わないと思っている。一般の病院は補助金なしで自主運営している。市立病院の総売り上げは、年40億円である。新病院建設予算は医療機器他を加えても、年間総売り上げの1.2から1.5倍が上限と言われているので、60億円が妥当である。このセオリーに反して、現在の建設費は124.6億円+医療機器・什器8億円=132.6億円である。巨額な病院を建てて、急性期に対応できる病院にしても、7診療科しかない中規模病院にできることは限られている。病院をスリムにしなければ生き残れない時代に、現状維持のままでも「儲けがでる病院にできる」と言って策定した「経営強化プラン」は実現不可能な机上の空論にすぎない。松本市が10億円の税金を毎年注ぎ込まない限り市立病院が黒字になることは絶対にない。 “いい加減に嘘とごまかしは辞めて欲しい”と言いたくなる。
日本中の病院が経営難なこのご時世に、経営改革を一切しないで巨額な病院を建ても経営を維持することはできない。松本市が病院を潰さないために10億円近い税金を30年間注ぎ込むことは無謀でしかない。その結果、松本市の財政は大きなヒビが入るのだから。

4.まとめ 〜関係者と市民が知っておくべき重大な事実〜

  1. 厚労省と総務省は、病床削減や病院改築は「松本地域医療構想調整会議」の下に行うこととしている。松本市の場合「基本計画」の策定に地域の保健・医療・福祉団体代表、医療に関する学識経験者、地方公共団体、地域住民代表の誰も関与していない。市議会だけに検討を委ねて、判断させるような案件では決してありえない。松本地域医療構想調整会議の議題にもなっていない。
  2. 地域医療の現場を熟知している専門家の意見を聞かず、日本の医療が置かれている困難な状況と10年後を考えないで、とりあえず病院を作ればよいと考えるならとんでもないことになる。
  3. 市立病院がまともな病院であれば、赤字隠しで総務省報告書の粉飾や人件費を少なく見せる給与比率の改竄はしない。設計業者の選定疑惑や、でたらめな「経営強化プラン」を策定し経営予想は精神論で実現しようとする。これでは誰が考えても病院は潰れるだろう。病院の規模、診療実績、経営状態、将来予想を考えれば、自分達の都合のみを考えた巨額な病院を望むべきではないのが常識である。外科系職員は手術件数を倍増する計画に“現状とかけ離れており無理”、“駅前広場に病院を建てるのはやめるべき”という根強い反対にも、病院幹部は職員を守るのではなく“市議会が決めたから仕方ない”と全て市議会のせいにしている。今の市立病院は腐っている。
  4. 市立病院は、北野管理者・渡辺事務部長=病院局長の独裁体制になっている。副市長更迭、病院長退職、病院の総務・企画・建設課長の交代、病院経営評価委員の市公認会計士、他病院長の交代である。病院建設計画に物申す人間を一掃してしまった。
  5. 特別委員会の最大の失策は、病院が策定した「見直し骨子案」を5対3(採決は取らない)で了承したことに尽きる。なぜ通常定数16人(選挙戦による欠員)まで待たなかったのか?市に急がされ、それに従わざるを得なかった賛成した委員は汚点を残すことになってしまった。
  6. 市立病院は経営改革を行わないで専門者会議の提言を骨抜きにした。市は特別委員会の了承を根拠に、一気に巨額病院建設に邁進している。
  7. 市立病院、松本市、市議会議員は、巨額病院建設が税金で行われる事業であることを真剣に考えているだろうか? 日々医療に、経営に命がけで苦労している、市内の民間病院・医院がこのあり様をどれだけ苦々しく見ているか想像したことはあるのだろうか? 徹底的に精査したとは到底思えない、必要以上の代物である。
  8. 働き方改革(超過勤務制限である80時間/月)がじわじわ効いている。
  9. 市長は、3月の選挙戦で「市立病院建設」に触れなかった。あえて隠したのか。市長が、杜撰な計画を変更しないのであれば、最近、3年間黒字だったなどと嘘をつかず、最低限の補助金で健全経営ができ、病院が起債を自主返済することができる根拠を示した上で、改めて民意を問うことが取るべき道ではないか。