2040年、三人に一人が高齢者になるので、病院のあり方が大きく変わる
1.はじめに
2040年、三人に一人が高齢者になるので病院のあり方が大きく変わる
急性期疾患が多い若年者と現役世代が減少。回復期疾患が多い高齢者が激増し、それもやがては減少に向かう。今や医療体制はがらりと変わり「治す医療」から「治し支える医療」への転換期である。2025年、既に3人に1人が65歳以上である。国が相当の決意を持たない限り「2040年」対策は難しい。国は、増加する高齢者で医療費総額が増嵩し、健康保険制度を維持することが難しくなってきた。そこで、世界一多い病院の削減に手をつけた。急性期疾患が減少していくので診療報酬に厳しい制限を設けた。その結果、病院は回復期に力を入れスリムにしない限り生き残れないところまで来ている。
松本市が、国の医療政策と、病院経営を考えないで波田地区に急性期を意識した巨額な病院を建てるという「的外れな政策」は、日本の医療が向かう方向と真逆で、松本地域医療構想と合致しない。市立病院が潰れると市民に実害をもたらすのでやめるべきである。
少子・高齢化・人口減少という大津波が押し寄せる「2040年」は国と市町村の問題です。市町村の在り方も変化が生じます。
山積する具体的な課題は自治体の方が分かります。そのための財源が必要になります。松本市が波田の巨額病院建設に膨大な税金を注ぎ込む大義名分が本当にあるのでしょうか?波田住民や松本市民のことを考えていない計画に大義名分はあるのでしょうか?
2.巨額な市立病院建設を止めないと松本市の財政はとんでもないことになる
2022年4月23日、北海道・知床半島沖で観光船「KAZU1(カズワン)(乗客乗員26人)が沈没し、20人が死亡、6人が行方不明となった事故は発生から2年半経った。事故当時、他の観光船は全て航行を停止した最中。社長は利益第一主義で船の不備も悪天候も考えず、船が引き返すか否かは船長に任せたと供述している。この事故の教訓は、社長が起こりうる最悪の事態を考えず、利益に執着し悪天候、船の不備、乗客の安全性を考えなかったことに尽きる。
これを市立病院建設と重ね合わせて考えてみよう。社長=市長は豪華客船(業績)に執着し、悪天候の荒海(病院が破綻する医療情勢)を理解していない。船長と船員(病院管理者・事務部長他)は、船員(病院職員)が多すぎることによる赤字経営にもかかわらず豪華客船を欲しがる。社長は放漫経営を野放しにしているので、船長には危機意識がなく海図も読めないのでどこを目指すのかが不明である。豪華客船の建造は会社(松本市)と社外役員(市議会議員)の了承が必要であるが、社外役員は社長に賛成するのが使命であると本来の役割をはき違えている。豪華客船ではサービスが悪いと乗客(患者)は集まらない。
市民の税金で豪華客船を作り、赤字が出たらその全てを市民の税金で補填するなら、まさに沈没することが目に見えている客船である。船体建造(病院建設)に180億円(高騰している建設費+設計費+銀行金利+駅周辺整備)を費やし、赤字補填額が年10億円近くになれば、市民にとって取り返しの付かない膨大な負の遺産になるだろう。
3.話を単純にすると誰でも分かるし、事情が透けて見えてくる
2013年4月、テレビドラマ「半沢直樹」が高視聴率をとった。顧客を大切にする銀行の融資課長が、銀行を大きくして自分の出世しか考えない常務と対決する物語である。
重役(市の部長職)は医療、病院経営、国の医療政策の転換、人口動態という基本的重要事項を理解できなかった。病院は建設に際して銀行からお金を借りなければならない。仮に市議会議員がしっかりした融資部員であれば、潰れる恐れがある会社に、お金を貸すはずはないだろう。
将来の経営予想はご都合主義の嘘であり、銀行融資部であれば簡単に見破ることができる。市立病院が以前発表した経営予想では、ア.病床稼働率90%では開院から10年間赤字が継続する。イ.繰越欠損金は増加する。ウ.運転資金が不足する。エ.病院局長は稼働率90%では経営破綻することを自ら証明してみせた。稼働率だけでは病院は決して黒字にならない。オ.事務部長は国が命じた「経営強化プラン」を作成したが、それを検証する側である病院局長が同一人物なので、監視機能が働かない究極のでたらめである。カ.計画は初めから年10億円近い税金による補填を当てにしているのである。
- 市立病院を会社に、病院建設特別委員会を銀行融資部に例える
- 会社は、建て替えで銀行に巨額な融資を申し込んだ
- 銀行融資部は、会社の素行、営業成績、ノウハウ、経営予想を審査する
- 会社の素行は悪く、過去に決算書の粉飾や改竄をしている
- 営業成績は連続赤字であるが、親会社からお金を入れたことで黒字を主張する
- 黒字にするノウハウはなく、親会社からお金を引き出すことしか考えていない
- 会社の経営予想の病床稼働率、手術件数、病床単価は実現不能な嘘の数字である
- 計画は杜撰で、会社が果たす役割は曖昧で分からない
- 銀行は、決して赤字で破綻する会社に融資しない
- なぜ市議会議員は、社会の常識が通用しないのか?
- 「長い物には巻かれろ」主義を貫けば、最後は大失敗するだろう
4.市は「見栄えのいい箱モノ建設」のためガバナンスとコンプライアンスを無視
- 管理者は病院経営の健全化が責務であり、病院建設とは無関係のはずである
- 基本計画は拡大路線一筋で、病院を縮小しない限り生き残れないことが理解できない
- 病院は決算書の粉飾・改竄に手を染め、経営健全にはほど遠い「経営強化プラン」を策定した
- 設計業者の選定は疑惑を通り越し不正である
- 経営予想は前述した通りのでたらめに尽きる
- 災害国である日本で、地震のリスクが高い場所に敢えて病院を建てる理由がない
- 市立病院は機能しなくても、大赤字でも税金で穴埋めをし続けることは許されないだろう
5.市立病院の建設場所選定では3度間違え迷走した
- 行政は行き当たりばったりで、レッドゾーン(現病院)、広範な土壌汚染(工場跡地)、狭く崩れる危険がある場所(駅前運動広場)に決めてきた
- 病院の建設場所は、地震や土砂災害に強く、安全・安心で静かな環境と交通の便が良い広い場所に限られる(眺望も大切。崖を眺めて身体と心を癒し人生の最後を迎えるのか!)
- 波田の歴史と地質を無視し、住民や病院職員や専門家の意見を聞かず、一部の町会役員や病院幹部や市長に忖度して決めることは間違いである
- 市議会議員は現地調査をしたのなら、駅前の運動広場で良い理由は何か明らかにすべきである(「少しでも早く」は理由にならない。工場跡地断念から何年経っているのか!)
6.市民の代表である市議会議員は民意を確かめる責任がある
松本市と市立病院の建設計画は、でたらめの一語に尽きる。なぜ、市議会議員は全国の医療情報を集める努力をしないのか?松本市の杜撰な計画は世の中の情勢に反し余りにも愚かな行為である。誰が考えても潰れる可能性が高い病院建設は尋常でない。
- 新潟県に11ある厚生連病院は経営が優良な病院である。2023年度は全て赤字となり、病院の縮小を決めた。15ある東京都立病院は全病院が赤字。3病院は34億円、25億円、22億円の赤字で、来院患者数はコロナ前の状態に戻らないと述べている。 また、全国あらゆる場所で病院の新築の中止や建設が渋っている。
- 2024年9月、四病院団体協議会(うち、日本病院会会長は相澤孝夫氏)は各病院の経営状況が厳しいことから「病院の改修や改築するお金すら出せない。工事費も急激に高くなっている」と指摘し、補助金も含め、今後国に診療報酬の値上げを要望 する考えを示した。
- 2024年10月、国立病院長会議は「大学病院がなくなるかもしれない」と発表した。2024年度は、42大学病院中32病院が赤字見込みである。赤字総額は260億円以上にのぼり20億円赤字の病院もある。働き方改革による人件費・高額医薬品・材料費・光熱水費・業務委託費の全てが高騰。コロナ補助金廃止で、大型医療機器の更新や建物の更新が渋る状況にある。研究費の減額で論文数が減少し研究力も低下している。これは、診療・教育・研究を行う大学病院が潰れる予兆である。「黒字になるスキームになっていない」。国が大学病院の存在をどう考えるかである。潰れていいとみんなが思うなら仕方がない。国立病院長会議は、早々に新内閣に支援を求めた。
- 2024年10月、東京都医師会は今年度病院の8割位が赤字になる。5〜10年先は「医療介護を受けたい」人も十分に受けられないと発表した。
- 松本医療圏には急性期に対応できる大病院が4つ、中小病院が6つある。それらの2024年の決算と今後の病院経営について、聞き取りをしないのか
- 市立病院建設の是非について、松本医療圏の医療を統括する医師会、歯科医師会、薬剤師会、看護協会に対し、聞き取りをしないのか
- 松本市民になぜ経過を説明しないのか、また市民の声に耳を傾けないのか
- 病院が破綻することになれば、現計画に賛成する議員は責任を取れるのか
7.「病院建設は値段が高いだけの、ただの箱物」という「風」が市議会を支配
〜市立だから目立つ場所に、立派な病院を建てるのは当然、は疑問〜
民主主義は多数決で案件を決める。決まれば反対した者も従う数の論理である。これは徹底した議論が尽くされること、反対意見にも配慮することが必要である。ところで、松本市議会の委員会には、案件の賛否に採決が存在しないケースがある。
委員長は、その場の「風」を読み賛成が多いと思えば了承。反対が多ければ継続審議とする。議事録を読まない限り、誰が賛成し誰が反対したか分からない。常に全員一致で賛成したことになる。議員に聞くと長年の慣習と言う。なぜ、このようなことがまかり通るのか?了承案件が失敗しても賛成した者の責任でなく議会の連帯責任。失敗したのは提案した市の理事者の責任という言い逃れは出来ない。賛成した議会にも同じ責任がある。議会は失敗した案件のどこが悪かったのかを検証しなければ同じ過ちをくり返す。市立病院建設で「菅谷市長案件」のやり直しから何も学ばなかったことになる。
「特別」委員会で重要案件を「風」で決めてはならない。「風」で決まった事実を市民が知れば、市民は間違いなく失望する。奇妙なことに案件に賛成する委員は沈黙して議論に加わらない。市民は自分が選んだ議員が何を考え、どんな行動をしているかを知ることが市民の義務であるし、知らせることが議会と議員の責務である。全ての案件は議決を行い反対意見も添えて開示することが、民主主義の最も大切な基礎である。二元代表制としての監視機能が市議会の役割であることを忘れてはならない。基本計画、基本設計、実施設計を了承したから後戻り出来ないという。しかし、市議会は、市立病院のあるべき姿、医療情勢の激変に対する判断基準を持っていなかった。市議会が地域医療を行っている医療者や市民の方を向かないで、自分達の面子に囚われ市の計画に賛同するなら市議会はないのと一緒である。
波田に巨額病院を建てても、高度医療や専門医療はできない。経営改革をしない。また、経営強化プランは実現しないので患者は増えず、諸経費の高騰で大赤字になり病院が潰れる可能性は非常に高い。市は病院を潰さないために膨大な税金を投入し続けなければならない。
市立病院建設案件は、建設費用が多額な単純な箱物案件ではない。今後の市政全般に関わる「極めて重要な」案件である。市議会の再考を求める。
8.まとめ
世界で一番、少子高齢化と人口減少が急速に進む日本は、国民の健康と福祉を支えてきた従来の体制を、2025年から2040年の15年間で根本的に見直しをしなければ全てが停滞してしまう。それを防ぐ唯一の方法は、目標とする未来像を描き、逆算して到達する手立てを練る戦略的思考であるバックキャストしかない。このスタイルの改革が今最も必要な分野の一つは医療と言われている。日本で求められる医療の内容は、高齢者がピークに到達する2043年に向けて劇的に変わる。一言で言えば「治す医療」から「治し支える医療」への転換である。
コロナ感染症がひと段落した現在、患者の受診離れが進行し、全国の病院は減益・減収になり倒産を免れない厳しい局面を迎えている。国は急性病床を20万減らし、回復病床を20万増やす必要があったが、未だに目標は達成されない。そこで厚労省は診療報酬を厳しく制限した。急性期患者を集め手術件数を増やさない限り病院は黒字にならない。その結果、高収入になるDPC(診療群分類包括評価)を維持することは大病院でも困難になった。
さらに、働き方改革は医療界でも進行し医師の派遣や救急医療の維持に影響が出ている。
国は世界一多い病院(169万)の削減を市場原理に委ねることにしたのではないか。若年者と65歳以下が減ると、病気やけがを早く治して学校や職場になるべく早く復帰させる「急性期医療」のニーズが減ってゆく。一方、高齢者は治療を終えても低下した体の機能は簡単に戻らないので、元の生活にも戻るために入院したまま数週間のリハビリを受けるニーズが増える。つまり、医師や看護師を重点配備する急性期医療の体制を縮小し、理学療法士らを含む他職種でリハビリを支える「回復期医療」を手厚くする改革が必要になってくるのである。今後、急性期疾患と手術件数が増えることはあり得ない。大学病院は外科医と麻酔科医を市中病院に供給できなくなるので、10年後には中小病院は外科手術が不可能になる。また、働き方改革で年960時間以上の勤務は制限されるので、中小病院の診療科や救急医療を今まで通りに維持することは困難になる。病院は医療圏での連携を今まで以上に求められ、診療科のさらなる特化と集中は免れない。今、病院は危機的な状況にある。以上の状況を無視して、市立病院の我がままと市長の思惑で総額180億円近い巨額な病院を建てても患者は増えず病床単価も上がらない。給与費、薬剤費、光熱水費他が増えて減益・減収になることは火を見るより明らかである。毎年10億円近い大赤字を出せば破綻してしまう。
「市立だから立派な病院にするのは当然」は、税金の無駄遣いであり無責任である。
通すべき筋を通すのが、地域医療を守る医師のプライドである。医師と病院建設に疑義を持つ市民は、地域の市議会議員に医療の現状や市立病院の役割を知ってもらう努力をすべきである。
松本市は市民の安全と幸せのためにあるはずである。観光推進も大切だが、国民(市民)の願いは景気・雇用・賃金、物価対策、福祉・医療・介護である。
市長の思惑と市立病院のわがままで、「見栄えのいい箱モノ建設」を強引に進めることは市民のためにならない。なぜなら、市立病院が巨額な病院を運営できないことは明らかである。
松本市が病院の破綻を防ぐために税金を投入し続けば、医療・福祉・教育・子育て支援・高齢者対策・交通対策他、新規大型事業の全てにブレーキがかかるだろう。
市立病院は「特別委員会」で詳しい説明をしない、詭弁、まやかし、業者選定で不正まで犯し「的外れな建設計画」を進めることは誰が考えても無理がある。 より安全な場所に、10、20年先を見越して「身の丈にあった」病院を建てることこそが松本市民や波田の住民のためになる。
市長選挙で現職は病院問題隠しを行い争点にしなかった。松本市は計画の正当性を言い続けるならば、全てを開示して市民の信を問うべきである。