波田に巨額病院=見栄えのいい箱モノ建設は、高度医療や専門医療ができないので必要ない
松本市立病院のことを真剣に考えよう
1. はじめに
今、日本の医療は大転換期にある。2025年、65歳以上の高齢者は3人に1人、2040年、75歳以上の高齢者は5人に1人になる。高齢者が増加すれば医療費の自然増は当たり前である。財源を確保するには、他分野の予算を削減するか増税するしか方法はない。今、全国の病院は赤字で経営困難な状況にある。
コロナ感染症が全国で蔓延し、多くの病院は緊急手術を除き、外来、検査、入院に厳しい制限をしてコロナ対策に傾注した。やがてコロナ感染は落ち着き、重症度も2類から5類に格下げされた。この間に患者は頻回に病院を受診しなくても病状が変わらないことを学んだ。コロナ感染症は少なくなったが、病院の新規患者が激減した。また、働き方改革により病院の人件費が多額になり薬剤費・材料費・光熱水費・食物費・委託費の全てが高騰した結果、減収・減益になった。
ところが国は、老健施設、病院、診療所の収入はいまだに多いとして、4月の改定で訪問介護報酬を引き下げ、6月には診療報酬を減額した。その結果、介護施設は7割の事業所が「悪化する」「事業継続が難しくなる」と回答し長野県の66市町村が減額の撤回を求める請願や陳情を行った。
一方、2023年度の病院収支は、東京都の15病院が大幅赤字となり、上位3病院の赤字は38億円、25億円、21億円と公表された。新潟県に11ある厚生連病院も全病院が赤字となり病院の規模縮小を決めた。長野県も県立病院の病床を縮小した。また、中規模病院の倒産が報告されるようになった。日本病院会のアンケート調査では、2024年度は全国の病院の8割が赤字になる予想で、東京都医師会も病院の8割の赤字予想を発表した。また、多くの診療所は減収とIT化の促進で、廃院や倒産が増えることが想定される。地域医療の最後の砦である大学病院も国立系42病院は赤字経営で、このままでは5年後には診療・教育・研究に支障を来たすので国に助成するよう要望書を提出した。
このように、市立病院も緊迫した医療情勢の中におかれている現実を知ろうとしない市職員と市議会議員は、“病院は儲かって潰れない”神話を信じ続けていることは恐ろしい。そもそも国民の実質賃金が減少し物価高騰に対応できない。特に年金暮らしの高齢者の生活を直撃している。少子高齢化・人口減少が急速に進んでいる時代に、国の方針に反し、医療施設が充実した松本市が税金で巨額病院を建てる大義名分はどこにもない。
2. 市立病院管理者の立場で考えてみよう
1)ことの始まり
菅谷前市長は在任中、市立病院の経営改善を行う管理者を置かなかった。そのためか病院経営は杜撰で長年赤字が続いた。また、新病院の建設計画は杜撰で土地購入は頓挫した。そこで、市長は計画を一旦凍結し、新たに病院管理者(以下、管理者)を決めて自らは退任した。
臥雲市長は、東京都健康長寿医療センター理事長、長野県独立行政法人理事長、信州大学医学部附属病院長、相澤東病院長、松本市医師会長、副市長からなる「専門者会議」を招集して市立病院を徹底的に分析してもらった。その結果、経営改革が大前提であり、国の医療政策と高齢化・人口減少に対処する適切な「提言」が策定された。市長は、これを市の方針として了承した。
2)管理者は「的外れな考え」を市・病院・市議会に広めた
管理者は、自分が専門者会議から外されたことに怒り記者会見までした。普通の人間であれば、市の方針に断固反対するなら自ら辞任すべきであった。
管理者は「提言に従って経営改革を進めれば病院の縮小は回避できず、医師、看護師が退職して病院が潰れる」と主張した。市長は経営改革のために任命した人間が実行できないなら即刻更迭すべきであった。ところが変わりがいないという理由で続投させた。その後、管理者は「提言」に対抗して「見直し骨子案」を策定した。これは、「提言」をベースに病床数を166から180に増やし、前提とされた改革を先送りしている。議員による病院建設特別委員会(以下、委員会)はその背景を理解できず「見直し骨子案」を了承してしまった。
次に市は、基本計画の策定に進んだ。管理者は「コンパクトな地域密着型病院をめざすとし、経営改革マインドを盛り込み、全人生全人的医療の提供を行える多機能体制を構築したい」を繰り返した。要約すると「経営改革を考え、小病院が大病院の役割をしたい」ということになるが論理的に矛盾している。
管理者は改革を唱えるだけで実行しないのでは、管理者の役割を果たしていない。しかし、委員会は管理者の言葉の真相を見破ることが出来なかった。審議を行った時期は、県議会選挙と市議会選挙後に重なり16人の定数は9人で結論を急ぐ理由はどこにもなかった。ところが村上委員長は、5対3で基本計画を了承してしまった。その結果、市は建設を進める足がかりを得ることになった。
次に市は基本設計に進んだ。市立病院の役割は国が決めた「地域密着型病院」に相当する。主な役割は在宅療養を支援する回復期主体の病院である。
しかし管理者は、急性期機能を多く取り入れたいので、意のままになる業者を選ぶ必要があった。そこで、プロポーザル方式を悪用して他の4業社を落とす不正を行った。その結果、意中の業者が選出された。業者が提出した案によると、市立病院の役割を、医療を核とした街づくりの拠点と位置づけ、急性期医療を中心に公立病院の使命である救急・感染症・周産期・僻地医療を展開するとしている。市長の要望であるゼロカーボンの街づくりの中核施設としての機能を担うことも明記されている。これは、管理者、市長と業者が事前に擦り合わせがない限り書けない提案である。
採用された基本設計は、急性期を主体にしているため、外来スペースは広大で、救急患者と一般患者を受け入れる27の診察室、広い検査室、3つの手術室など、回復期病院の設計ではない。感染症対策では、一般患者と感染症患者が使用するエレベーターが同一、看護ステーションの位置が悪いなど、現場感覚とかけ離れている。医師なら直ぐ気づくが、医療や病院建設に対する判断基準を持っていない委員会は、問題箇所が分からないまま基本設計を了承してしまった。
管理者は、基本設計は一切変更しないと強弁するが10年先を考えてみよう。広大な外来や手術室は3つ要らない。少子化で産科・小児科の見直しは避けて通れない。感染症対策や病棟配置も十分検討したとは到底思えない。
次に、市は入札で実施設計業者を決めた。実施設計は、基本設計に従い、材料費、賃金他を金額で積み上げ予算書を作ることであり、現実的なものにより近い。
最近は、国の価格基準があり精度の高い計算が可能になっていると聞く。松本市は、市内の7設計事務所に応募案内を出した。ジョイントする親会社に50人の一級建築士がいる条件をつけたので2社に留まった。意中でない設計業者が223,707,000円で落札した。その差は1,614,800円で最低制限価格を僅か8,250円上回った。一般的に実施設計は基本設計をした業者が行うことが多いが、今回は別の業者が行うことになる。
3)経営戦略がないので、潰れる病院を建てることになる
病院を建設する金額は、収入の1.5倍までが安全域で、それ以上になれば返済する借金が重荷になり破綻すると言われている。市立病院の収入は約40億円なので、建設費は60億円が限度である。当初の予想は87.4億円であったが、今や124.7億円まで膨らみ返済不能である。建設費には銀行から借りる際に約30億円の金利がつく。建設資材、人件費の高騰はいまだ収まっていない。さらに運動広場の代替地の購入費、駅周辺整備費が加わり、建設に要する総額は180億円近くになる可能性がある。総務省は92.1%の自治体病院が赤字で、対策に積極的でないことに強い危機感を持っている。そこで、各病院に「経営強化プラン」の策定を命じた。市立病院が策定したプランは、①病床稼働率を95.4%にする。②手術件数を倍にする。③急性期病床単価を42,000円から63,500円にするのが柱である。しかし、2023年度の病床稼働率は75.9%に止まり、手術患者は増えない、さらに63,500円の対象患者は限定的で、プランは「絵に描いた餅」である。コロナ禍後は、どこの病院も入院患者が減少しているので、支出を減らす改革をしない限り、赤字が長期間続くことは間違いない。新病院を建てれば、補助金は現在の4億円強を上回ることは確実である。「病院の起債」である建設費の半分を30年間で払い終えることは到底できない。建設計画自体が杜撰すぎて、破綻していることが目に見えている。あまりにも理不尽な計画は、市の財政基盤を揺るがすことは間違いない。
「建設計画」に賛成する市議会議員に問いたい。今まで目をつぶってきた事実を突きつけられてもなお、市が税金でなんとかするだろう。自分達に責任はない、関係ないと言い切れるであろうか? ツケは全て税金である。賛成するなら議員も市民が納得できる説明をする責任がある。このことを肝に銘じるべきである。
経営の効率化等 経営指標に係る数値目標:市病院局資料
指標 | 実績値 | 実績値 | 目標値 | 目標値 | 目標値 | 目標値 |
---|---|---|---|---|---|---|
年度 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 | 2026 | 2027 |
入院患者数/日 | 136.6 | 151.1 | 149.7 | 151.5 | 157.7 | 181.9 |
外来患者数/日 | 403.7 | 436.7 | 352 | 354 | 356 | 358 |
病床稼働率% | 70.8 | 75.9 | 77.6 | 78.5 | 90.8 | 93 |
上の表は、市病院局が委員会に提出した資料の一部である。2023年の病床稼働率は75.9%で、赤字にならない市立病院の試算95.4%を遥かに下回っている。コロナ禍後全国の病院の入院患者が減少している中で、市立病院の70%台の稼働率が急に2026年度は90.8%、2027年度は93%になるはずはない。
万一、意図的に入院患者を増やすなら病院の評判は、がた落ちになるだろう。
別の資料:( )内の医業外収益=市が病院に繰り入れる補助金。
2023年度の医業収益43.2億(7.7億円)が2027年度には48.1億円(4.3億円)になっている。真の医業収益は2023年度35.5億円、2027年度43.8億円である。この時代、市立病院は8.3億円の増収には決してならない。数字は全てでたらめなのに、なぜ委員会は徹底的に追及しないで済ましてしまうのか?
なお、松本市は2028年度から7.7億円を医業外収益として計上し続けている。
万一、病院が返済すべき「起債」を市に肩代わりさせれば「でたらめ」である。
監視すべき市病院局長が病院事務部長を兼務しているのは大問題である。
2024年11月7日、市立病院の経営状況と医療機能について外部評価する経営評価委員会が開かれた。2024年度の上半期(4月〜9月)の病床稼働率は91.7%と10ポイント増加した。入院延患者数は23年度の同時期より5.647人増えた。外来患者数は1日平均330,9人で23年度の同時期より1日平均12,4人減った。同病院によると上半期と同じ病床稼働率を維持できた場合でも、本年度はコロナの病床確保補助金3.9億円弱を得られないため、経営収支の黒字化は厳しい。状況。北野管理者は「さらに病床稼働率を上げる」と述べた(信濃毎日新聞)。なお、2023年度は3.7億円の黒字と言うが、7,7億円強の補助金(コロナが4億円+市・他から)入っているので、補助金がなければ3億円の赤字である。
コロナ感染症後、どこの病院も外来・入院患者が減少しているのに、市立病院(180床)は入院患者が、2024年度の上半期5ヵ月で5,647人増えている。1ヵ月で1,130人、1日当たり37人強に相当する。
市立病院は、元来紹介患者が少ないので、病院上げて外来患者に入院を勧めても著しい増加にはならない。しかも、そんなことは長続きしないだろう。
ちなみに、安曇野赤十字病院(316床)の同時期の入院患者は1,207人増と新聞発表があった。管理者は「さらに病床稼働率を上げる」と述べた。どうしたら、こんなに市立病院の入院患者が増えるのか説明する責任がある。
委員会が経営改善を判断するポイントは、2点である。
- 病院の収入は、入院、外来、その他であるが前年度に比べ増加したか?
増加させるためには、診療水準、専門分野、安全性と信頼度、急性期の患者を集め手術件数を増やすことである。単に病床稼働率を上げるだけで収入は増えない。他の病院にない医業外収益(補助金)を医業収入に加え黒字化と言うのは、やめるべきである。 - 病院の支出は、給与費、薬剤費、材料費、光熱水費、他である。65%以上占める給与費が適正かが問題である。人員が過剰でないか、適正配置か、給与が高すぎないかである。給与比率の計算で医業収益に補助金を加えると給与費率が低くなるが、他の病院では行っていないのでやめるべきである。
管理者は、単に病床稼働率を上げれば経営が改善すると未だに考えている。経営が安定しているかのように繕うために数字の改竄や実現不能な目標を掲げるが、嘘をつき続けることで病院の信頼を深く傷つけている。
4)「見当違いな建設計画」を進める管理者の自信はどこから来るのか
管理者と病院局長は今、医療界で起こっている病院が破綻する危険性と市立病院の経営の実態を充分承知している。なぜ、公務員である両者が危険を犯して、でたらめをするか到底理解できない。将来、破綻しても、自分たちに類が及ばないということか?
健全経営の実現は難しいと委員会で追及されると“皆で頑張れば可能”と述べた。議員が病院の現状や実績でなく、あたかも竹槍で本土決戦を戦うような精神論を認め、納得しているのであれば実に嘆かわしい。これは「見当違いな建設計画」でも「よし」とする議員が多いからである。
冒頭で述べた、日本の病院の8割が赤字であり、黒字病院でさえ利益は僅かでしかない。コロナ感染症が蔓延したため、病院は通常業務が不可能となり、国は膨大な助成金を出した。市立病院は市の補助金に加え16.8億円を国から得ている。2022年から2023年入院収益が6億円増えたのは、高い病室確保助成金のおかげである。市長は記者会見で、当期純利益は3億7200万円で5年連続黒字と述べ、地元新聞は黒字を宣伝した。病院の経営改革によるのではなく、多額な補助金による帳簿上の黒字で病院の慢性赤字を隠す「真っ赤な嘘」である。しかし、事情を知らない市民は、病院経営は安泰と信じてしまう。市長自ら市民に嘘をついた責任は非常に重い。
市立病院は、最近数年市から4億円強の補助金(医業外収益)を得ているが、2023年度の助成金は7,7億円強である。巨額病院を建てれば、補助金はさらに増える。市立病院だから、赤字の全てを市が負担して当然と考えている節があるが、財政を無視する背信行為を見逃すわけにはいかない。
では、「見当違いな建設計画」を進める自信はどこから来るのか。「市長案件」に対して職員は口を挟まない、たとえ「間違い」と分かっていても誰も正さない。反対があっても、結局のところこのまま受け入れてしまう無責任な議員が必ず賛成に回ると考えているからではなかろうか。“医師が病院や住民のために巨額病院を建ててどこが悪いのか”と考えるなら傲慢というしかないだろう。
委員会は、独立行政法人化(長野県独法元理事長)、地域医療と市立病院の実績(相澤東病院長)、松本市の医療需要予測(信大前病院長)を招いて学習している。しかし、学習効果は疑問で各段階での検討は非常に甘く、結局実施設計まで進んでしまった。しかし、管理者にとって、まだ山場はいくつも残っている。
市議会は、建設に関する総事業費、助成金、経営予想、災害に弱く危険で金がかかる敷地で本当に良いか、市の将来を見据えて正しく判断する責任がある。
5)再三述べるが駅前運動広場は病院を建てる場所ではない
波田住民の多くと病院職員と医療関係者は、駅前の運動広場に反対している。
殆どの市民はどのような経緯で、運動広場に決まったか知らない。市の説明は①運動広場は市の所有地で新たに土地を買わずにすむ→運動広場の代替地の購入が必要。②運動広場の南法面は土砂災害工事をしたから安全→この程度の工事は地震対策でないと担当者が述べた。③駅前だから患者に便利→殆どの患者が利用するのは車であり駅ではない。④旧病院も利用できる→具体案は示されていない。⑤農家にとって最も大切な農業用水路への影響について市と市議会は沈黙した→地震が起これば農業用水路は壊滅し病院は甚大な被害を被り、農業用水路の復旧も出来なくなる。議員は、⑤を無視し①から④の理由で賛成した。市民がこの事実を知れば、いずれも賛成に値する理由になっていない。運動広場は、過去の地震によってできた窪地で、南北にある河岸段丘に囲まれた危険な場所である。さらに南河岸段丘の中腹にある農業用水路(波田せぎ)は農家の生命線である。侵入道路である県道25号線は急峻な坂道で上高地線の踏切と、6棟のビルが建つ駅周周辺整備は難工事で膨大な費用がかかる。委員は現地視察を行っても沈黙し、新聞は何にも伝えない。市にとって都合が悪いことであっても市民には隠すべきではない。日本は地震国で、いつでもどこでも地震は起こる。病院の建設場所こそ、安全第一が一般的にも科学的にも常識である。
既に一度賛成したから変更できないという理屈はおかしい。市民のためにある市議会である。間違った判断をしたのであれば、陳謝して堂々と訂正すれば済むことではないか。人命最優先こそが世間の常識である。
6)市立病院の行政依存と手段を選ばない非常識は改まらない
- 菅谷前市長下の2018年、当時の市病院局長は、病院の赤字を黒字に粉飾して総務省に報告したが、これは重大な規則違反を犯したことになる
- 当時の病院長は、当初から建設敷地が決まったかのように宣伝した
経営予想で、病院収入は高齢者が増えるので経営は安定すると主張した - 臥雲市長下、専門家による提言は経営改革が最大の課題であるが無視した
- 専門家の提言を「見直し骨子案」に変えて巨額病院計画にした
- 基本設計業者の選定で採用基準を変更し競合業者を排除する不正を犯した
- 計画に従事してきた建設課長、企画課長、総務課長を一新した
- 病院経営評価委員会では、事情がよくわからない委員に差し替えた
- 市の職員である病院幹部は、自分達の間違った計画を強引に進めるため市のコンプライアンスに違反し、市民に対する背信行為をしている
- 建設費と関連予算が決まっていないのに、完成した病院と駅周辺の整備図をカラー写真で広報や新聞で宣伝するのはフライイングであり、明らかに市民を欺いている
- 管理者は見当違いな考えを広め、市長は街おこしに病院を利用している
- 最初に建設ありきで、病院が経営難で破綻する時代になっていることを考えない。市民のためでなく自分達のための病院を建てようとしている
3. 杜撰な建設計画は市の財政基盤を崩すことになる
今回の国政選挙で、与野党とも、相変わらずばらまきを主張したが財源をどこに求めるか明らかにしていない。先進国で最大の借金が1,300兆円ある日本は既に財政的に破綻している。国が地方に渡す地方交付税交付金も減額せざるを得ない。そのため、市町村が政策を実現する財源が十分ないのが現状である。
松本市が市立病院を建てる場合、まず、必要以上に巨額な投資をしても無駄になることは、病院の規模、実力と実績、過去の赤字から明らかである。市立病院は高度医療・専門医療・高度救命救急医療が出来ないので、国が定めた在宅療養を支援する「地域密着型病院」に徹することを繰り返し述べてきた。強引に計画を進めれば、市の財政基盤を崩し、医療・福祉・子育て支援・学校教育・農業振興に支障をきたすばかりでなく、ごみ焼却場、市役所建設、図書館など大型事業が全て先延ばしになる。市長は冷静に10年先を見越して判断することである。
現在の危機的な状況を無視し、立場をわきまえない市立病院のわがままにつき合って「見栄えのいい箱モノ建設」を、市長の我欲で実行すれ大失敗を犯すのは火を見るより明らかである。財政への影響を考慮しない政策は将来に禍根を残すからである。
4. おわりに
人口減少と高齢化、国の方針と医療情勢の変化により、病院は構造的に儲からないので倒産の危機にある。市議会はそれを理解しないで「市長案件」に賛成するのはまともでない。
長年、地域医療の構築に尽力してきた医療者の意見を全く無視するのは言語道断である。市立病院か医療者のどちらの言い分が正しいか分かるはずである。
市役所の職員は上司の顔色を伺い、上司は市長の顔色を伺っている。正しいと思うことを口にできない組織に、正しい判断ができるだろうか? 市長は、市長選挙で市立病院問題隠しを行った。当選後、前回と同様に職員の誰もが活発な議論ができる職場にしたいと抱負を述べたが、実態は程遠い。
賛成する委員は一致して『見ざる・聞かざる・言わざる』に徹していると聞く。黒は黒、白は白、赤は赤!『ダメなことはダメ』と意思表示することが市民から選出された議員の役割ではないか。市政は変わらない、何を言っても無駄と市民が思えば民主主義は終わってしまう。まず、市政をチェックする立場にある市議会がエリを正すことではないか。各自が勉強して異なる意見にも真摯に耳を傾け、はぐらかさずに正面から議論することである。採決しないで了承で済ませることは、もう止めるべきである。議員は自分の発言に最後まで責任を持つべきである。議員として何をなすべきかを考えて行動して欲しい。
市立病院建設は“この会社は安全で、株を買えば儲かる”と購入を進める悪い証券会社と一緒である。ハイリスクにハイリターンはない。騙した側が悪いのか、騙された側が悪いのか、悪いのは騙した側である。
管理者の役割は経営改革であって病院建設ではない。ここから間違いが始まった。地域医療の本質も分からず、ご都合主義の歪んだ考えは病院を潰すだろう。基本計画、基本設計は根本から瓦解している。市民が黙っていれば、ツケは孫子の代にまで及ぶだろう。
経営が立ち行かないで破綻することが明らかな病院を危険な場所に建て、未来に負の遺産を残してはならない。市議会は、手遅れにならない内に一旦凍結する道を選択すべきである。
「市民の会」は間違った計画を止めるため、最後まで反対する責任がある。 一貫して、より安全な場所に「身の丈に合う病院」を建てることが波田地区住民や松本市民のためになると固く信じている。
問題点の整理
- 全国の病院が経営難の危機にある、医療施設が整った松本市に巨額病院は要らない
- 小病院である市立病院の役割は、在宅療養を支援する「地域密着型病院」である
- 市長は専門者会議の、国の方針と時代にマッチした「提言」を市の方針として了承した
- 「提言」に反対する管理者は経営改革を放棄し、本来の役割でない病院建設に専念した
- 管理者は「提言」に対し「見直し骨子案」を策定して病院の役割を変えてしまった
- 基本計画は、地域医療の本質が分らない、ご都合主義の歪んだ計画になった
- 計画の中身は「提言」をベースに180床にしたが、肝心の経営改革は先送りした
- 基本設計は、急性期のミニ総合病院にするため、不正を犯して意中の業者を選んだ
- 高度救急医療が出来ないのに、広大な外来、検査室、3つの手術室がある
- 医業収入40億円の建設費の限度額は60億円だが、127億円に膨らみ返済が不可能
- 市立病院の赤字は、多い職員と高い人件費で人件比率は75%台で異常である
- 総務省が命じた「経営強化プラン」対し、支出削減でなく収入増加は失敗する
- 市立病院は、病床稼働率を95.4%以上に設定し、無理して入院患者を増やしている
- 市立病院は、医業外収益(税金)とコロナ助成金を合わせて、病院の黒字化を宣伝
- 巨額病院を建てれば、赤字の補填額は4→7.7億円以上になり市の財政を圧迫する
- 建設予定地は南北に河岸段丘がある窪地で狭い上に、地震が起これば危険である
- 河岸段丘の中段に「農業用水路」があり、駅周辺の開発には莫大な費用がかかる