新市立病院のあり方を考える市民の会

「地域医療構想」での市立病院の役割は在宅医療を支援する「地域密着型病院」で主として回復期病院に相当します。

市立病院建設は国の地域医療構想とは異なっている

1.はじめに

2016年、松本市は市立病院の移転新築を決めた。菅谷市政では、103億円の建設計画は病院が債務超過寸前であること、建設予定地の土壌汚染で中断した。臥雲市政では、管理者が経営改革を先送りし、急性期主体の180億円近い「巨額病院」と危険な建設地で迷走している。市立病院は総務省傘下にあるので、総務省の考えや厚労省の「地域医療構想」を考慮しないで、進めているのは理解に苦しむ。
市立病院は、定年退職した元・前病院長が週4日勤務している。彼らは在任中、身を切る改革をしないで大きな病院と市の繰入金(補助金)を増やせと言い続けてきた。経営に口出ししないと言うが、経営失敗の責任を取らないのは世間の感覚から外れている。これでは病院の体質は変わらない。県立病院機構は財政悪化の責任を問い理事長と副理事長の給与を減給した。

2.地域医療構想とは

2025年に、我が国はいわゆる「団塊の世代」が全て75歳以上の高齢者になる “超高齢者”社会を迎える。医療機能を「高度急性期、急性期、回復期、慢性期」の4つに区分し、その供給数を調整し、各地域において、患者がその状況に見合った機能の医療サービスを適切に受けられる体制を維持することが、地域医療構想の目的である。具体的には、まず2025年以降の、医療機能ごとの需要と在宅医療等の医療需要が2次医療圏(都道府県内の地域構想)単位で推計されている。

次に、各医療機関から毎年、医療機能の現状と今後の方向についての「臨床機能報告」を受け、足元の病床機能ごとの病床数および、今後の方向性が把握される。その報告を活用し、都道府県が「地域医療構想」を策定する。その内容としては、将来目標とすべき施策(施設整備、在宅医療の充実、医療従事者の確保と育成等)が盛り込まれ、病床数の機能分化と連携については「地域医療構想調整会議」で協議される。地域においては、過剰であるとされる医療機能(病床)と不足している医療機能(病床)がでてくる。各病院はこうした過不足を考慮した検討を迫られている。場合によっては地域医療構想に資するかどうかについて地域医療構想調整会議の場で、是非が検討されることになる。(厚労省地域医療構想2022年10月17日公開、2024年7月15日更新)

松本地域の地域医療構想調整会議は、急性期病床削減の検討に止まっている。市立病院は議題に上がっていないのを良いことに、急いで計画を進めているのが現状である。しかし、厳しい経済情勢下では思うようにはならないだろう。
さらに言及するとすれば、公立病院ならば地域医療構想に率先して積極的に関わるべきであるが、北野管理者にはそんな矜持は微塵もないだろう。

3.地域医療構想の背景にある2025年問題

いわゆる「団塊の世代」とは、第二次世界大戦後のベビーブーム(1947〜1948年)において誕生した世代である。この世代の人達が、3,600万人になり人口全体の約30%を占めるようになる。これは、15歳〜64歳の現役世代が2人で1人の高齢者を支える計算になる。超高齢化により社会保障を負担するバランスが崩れるのはもちろん、高齢者の医療に対する需要が増加する反面で、医療介護に従事する現役世代の労働力不足の問題が深刻化する。そのため、より少ない労働力で、より効率的に医療を提供できる体制が必要となる。地域医療構想もそういった流れの一環に位置付けられている(厚労省地域医療構想より引用)。

病床機能名病床機能の内容(全日本病院協会地域医療構想より引用)
高度急性期急性期患者に対し、状態の早期安定化に向けての高度急性医療、救命救急病棟、集中治療室、ハイケアユニット、新生児・小児集中治療室、総合周産期医療室等、急性期に密度が高い医療の提供
急性期急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて医療を提供
回復期急性期を経過した患者の在宅復帰に向けた医療とリハビリテーションを提供する機能。特に急性期を経過した脳血管障害、大腿骨頭骨折等の患者。在宅復帰を目的とした回復期リハビリ機能
慢性期長期にわり療養が必要な患者や重度の障害者、筋ジストロフィー患者や難病患者を入院させる機能

4.地域医療構想実現のために医療機関がなすべきこと

2025年以降の高齢者患者の増加は、急性期機能の需要が相対的に減少することを意味している。また、より長期的な観点から見れば、総人口の減少から、慢性期機能の需要も減少が見込まれる。総医療費圧縮のためには、これまでの慢性期病棟に入院させていた患者さんの在宅医療へ切り替えていくことも求められている。そのために、急性期機能、慢性期機能から回復期機能の充実と回復期への病床機能転換が求められている(厚労省地域医療構想より引用)。

5.まとめ

2025年問題が提起されて以来、国は診療報酬の改定の中で、医療機関に人口減少社会に対応する医療体制作りの方向性化を提示してきた。その結果、在院日数の短縮化と在宅医療の普及が進み、いわゆる「治す医療」から「治し支える医療」への変革が進行している。病院においてもケアマネージャー、訪問看護と連携し地域全体で患者さんを支える意識がより強く求められている。その流れの中で、地域医療構想を、新しく到来する時代に対応できる医療体制を作るために不可欠な変革プロセスとしてとらえ、積極的に社会の要請に応えていくことこそ、今後の病院の存続発展には不可欠である。以上が、国が進める地域医療構想である。(厚労省地域医療構想より引用)

しかし、現在進行している市立病院建設計画が、国の目指す方向と異なるのは一目瞭然である。市立病院の地域医療構想での役割は、在宅医療を支援する地域密着型病院で、回復期を主体にした病院に他ならない。
市が全額自費で建てるから国に従う必要がないとは言えない。なぜなら自治体病院も国の医療政策に従うことになっているからである。
管理者は「ここは今も町立波田総合病院」なる『妄想』のもと、西山地区の基幹病院として小児から高齢者の急性期から回復・慢性期まで一貫して診る病院が必要と考えたが、全く間違っている。僅か7診療科、180床で全てを診ることは不可能である。
外来診療を信大病院に依存し総合病院を名乗ってきたが不可能になった。長年税金で赤字を補填してきたが、それにも限度がある。市立病院の経営改革は病床の縮小と急性期から回復期主体への転換しかないのである。しかし、管理者はそれに反対して現状維持で収入を増やす誤った方針を打ち出した。入院患者を増やし急性期患者を増やすため救急医療体制を充実させ、手術患者を増やし収入を増加させるというが、実績と能力の不足する小病院では実現不可能である。新病院の広い外来や検査室、3つの手術室は無駄になる。
市立病院は2024年11月、院内で開いた経営評価委員会で2024年度上半期の延べ入院患者が5,467人増えたと報告した。全国の病院で患者が減少しているので、信じられない数字である。延べ入院患者数は、深夜12時に在院している患者を数えて集計している。患者増のトリックは入院患者の在院日数を伸ばしたことによる。また、4年連続黒字は帳簿上で実質大赤字であることも明らかである。市立病院は誤った方針で背伸びをした結果、管理者は様々な不正を犯してしまった。

現在から将来にかけ病院が潰れる情勢の中で、杜撰な経営の市立病院は破綻する危険が大きい。総事業費は建設費の上昇と駅周辺整備費を加えると180億円近くになる。新病院を建てても、建設起債(億円/年)の償還は不可能。経費の高騰で、他の病院にない赤字補填額は億円/年近くに跳ね上がる。
北野管理者は病院を建てた後を考えていない。建設起債は90億円である。10年先には起債返済額30億円、赤字額80億円合わせて110億円。180+110=290億円の全てが税金である。まさに無責任な「巨額病院」である。
最早、病院のあり方を一から見直さなければ病院建設は不可能である。

全国の病院経営ニュース

  • 新潟厚生連の病院が巨額の赤字にあえぐ新潟県。厳しい状況は県立病院も同じだ。13病院を運営する県病院局は2月、2023年度の赤字が23億1000万円に上ることを公表。758億9000万円の収益に対し、費用は782億円に上った。2024/7/11 JA新潟厚生連は10日、県内で運営する11病院の「経営改革方針」を決めた。人口減少やコロナ禍の影響で収益が悪化し、このままでは来年度に債務超過になるので病院の規模を縮小する。
  • 都立病院など計15医療機関を運営する独立行政法人「都立病院機構」の2023年度決算が明らかになり、最終損益は約183億円の赤字だった。新型コロナウイルス関連の国の補助金がほぼなくなったことに加え、コロナ禍で減った。
  • 東京都内の病院経営が厳しさを増している。100床あたりの経常損失は全国平均を3割上回り、赤字の病院は全体の半分を占める。新型コロナウイルス禍前の水準まで患者数が回復せず、地方に比べて人件費や患者に出す食事の経費が高いことも背景にある。老朽化した病院の建て替えを断念し、閉院するケースもでてきた。
  • 2024/1/26 松本市病院局は25日、移転新築を検討している市立病院について病床稼働率95.4%を維持した場合でも、経常損益は33年度まで赤字と発表。市立病院は稼働率を上がるために患者の退院を遅らせている。管理者は更に稼働率を上げると11/8の新聞で公表したが、組織ぐるみの違法行為である。
  • 国立大学42病院のうち、32病院が2024年度の赤字は235億円に達すると見られている。このままでは5年後には医師の研修、高度医療の継続や医学研究に支障をきたす。危機的状況の打開に国の援助が必要。
  • 2024/9/24 開設主体別で見ると、2024年6月の医業利益は、全ての開設主体において前年同月比で2期連続赤字となっていることが分かった(日経新聞)。
  • 2024/10/9 東京都医師会長、都内の民間病院の8割が赤字に陥る可能性にも触れ、病院経営の厳しさを訴えた。
  • 2024/11/17 県立5病院を運営する地方独立行政法人県立病院機構の2023年度決算は過去最大の赤字を計上し、病院運営への影響も目立つ。
  • 2024年 松本地域の大・中規模病院と小規模病院はいずれも赤字経営で厳しい。少ない黒字病院の収益も数千万円に止まっている。
  • 2025/1/18 東京都は新年度予算で、都内に600近くある全民間病院に総額300億円の財政支援を行う方針を固めた。コロナ禍後の病院経営は物価高や人件費の上昇、患者減少により厳しさを増している。財政支援は医療提供体制の安定確保を図る狙いがある。しかし、この程度の支援では焼け石に水であろう。
  • 2025/1/22 5病院団体が財政支援措置や「診療報酬で物価上昇に対応できる仕組み」の導入、「社会保障関係費の伸びを高齢化の伸びの範囲に抑制する」財政フレームの見直しを福岡厚労大臣に要望した。日本医療法人協会会長の加納氏は「会員から、銀行からの融資が受けられなくなったとの声が届いている。我々は絶滅してしまうと思っている。いよいよ最悪な状況だ」と危機感を露わにした。
  • 2025/1/22 全国の私立大学病院の2024年度収支は「ほぼ全ての病院が赤字に転落」の危機にある。社会全体がデフレのときはよかったが、インフレに転じ、診療報酬改定がそれに追いついていない。
  • 2025/1/30 厚労省は医療介護福祉政策研究フォーラムで、医療の前向きな「撤退戦略」の検討を言及した。